動物を「飼育する」ということ そのⅨ

今から10年ほど前の、ある夜のことです。

Mさんから「ユウが死んだよ~」という電話がありました。

「佑」?そんな馬鹿な(今、大阪にいるのに)

よくよく考えてみると、ユウとは昭和61年に生まれたオスのマサイキリンのことでした。

母親のタカコは、妊娠・出産はするものの子育てが下手で、生まれた子どもはいつも、

人工保育※で育てていました。

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※人工保育
 動物の親に代わって、人間が育てること(鳥の場合は人工育雛

ユウも人工保育で育てることにしましたが、1週間ほどは、自力で

立ち上がることができませんでした。

やむを得ず、数日間は座ったまま牛の初乳※を飲ませましたが、

その後は無理やり立たせて・押さえつけて飲ませました。

キリンの子どもは本来、立って乳を飲むわけですから、当然、三人掛りになります。

哺乳類の場合、出産後の子どもは母親の初乳を飲みますが、人工保育のキリンには、

母親の初乳を飲ませることができません。

そこで、近隣の酪農家に相談したところ、牛の初乳を分けてもらうことができました。

牛とキリンでは初乳の成分も当然違いますが、飲ませないよりは飲ませた方がいい

はずです。%e5%88%9d%e4%b9%b3%ef%bc%9aimg-detail01

多くの哺乳類で、初乳を飲んだ個体の方が生存率が高くなると、

言われています。

 

※初乳
 分娩後の数日間に出る乳汁で、抗体や成長因子なども含んでいます。

当時、キリンを担当していたMさんは、キリンの子どもに「植物

の名前を付けていました。gum10_ph05097

たとえば♂ならクスオ、フジ、♀ならクルミ、アヤメ、ヤマブキ、

マロン、コブシなどです。

どんな名前がいいか、Mさんから相談されたような。

そこで、去年生まれた二男には「佑と付けましたよ~」と

言ったような。

Mさんに魔がさしたのか、「ユウでよかが!」となりましたが、今思えば、家族の名前

を付けることは、良くないことだったかも知れません。

 

動物園動物の名前は、どのように決まるのでしょうか。

行政マンが好む特別な動物では、一般市民に公募することもあります。

何が特別なのか分かりませんが、特定の動物を「園の目玉にする」という発想は、

私の理念・価値観とは対極にあるものです。

特別な動物ですから、名前の付け方も特別でなければならないのでしょう。



それ以外は、飼育担当者が決めるのが一般的です。

昔は、嫌いな上司の名前を付けることもあったとか(の名前として)

動物園によっては、その年に生まれた子ども全部に、ある「共通の名前」を付ける

こともあります。

今年は「植物」、来年は「お菓子」、再来年は「遊び」、その次は「野球用語」

といった具合です。

そうすることで、その個体の名前を聞いただけで、生まれた年が分かるという利点

もあります。

上野動物園のジャガーは、「ポテト」と「チップ」でした。

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他にも、クリスマスイブに生まれた個体には「イブ」という名前

を付けたりもします。

 

もちろん、すべての動物に名前を付けることはできません。

たとえば、フラミンゴやペンギンなど個体数の多い動物では、名前ではなく

足輪や翼帯」で個体識別しますが、足輪などは取れてしまう

こともあります。gum01_ph02001

簡単に捕まえられる動物では、マイクロチップという小さな金属

を皮下に埋めて、読み取り機で個体識別する方法などがあります。

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