今から10年ほど前の、ある夜のことです。
Mさんから「ユウが死んだよ~」という電話がありました。
「佑」?そんな馬鹿な(今、大阪にいるのに)
よくよく考えてみると、ユウとは昭和61年に生まれたオスのマサイキリンのことでした。
母親のタカコは、妊娠・出産はするものの子育てが下手で、生まれた子どもはいつも、
人工保育※で育てていました。
※人工保育
動物の親に代わって、人間が育てること(鳥の場合は人工育雛)
ユウも人工保育で育てることにしましたが、1週間ほどは、自力で
立ち上がることができませんでした。
やむを得ず、数日間は座ったまま牛の初乳※を飲ませましたが、
その後は無理やり立たせて・押さえつけて飲ませました。
キリンの子どもは本来、立って乳を飲むわけですから、当然、三人掛りになります。
哺乳類の場合、出産後の子どもは母親の初乳を飲みますが、人工保育のキリンには、
母親の初乳を飲ませることができません。
そこで、近隣の酪農家に相談したところ、牛の初乳を分けてもらうことができました。
牛とキリンでは初乳の成分も当然違いますが、飲ませないよりは飲ませた方がいい
多くの哺乳類で、初乳を飲んだ個体の方が生存率が高くなると、
言われています。
※初乳
分娩後の数日間に出る乳汁で、抗体や成長因子なども含んでいます。
当時、キリンを担当していたMさんは、キリンの子どもに「植物」
たとえば♂ならクスオ、フジ、♀ならクルミ、アヤメ、ヤマブキ、
マロン、コブシなどです。
どんな名前がいいか、Mさんから相談されたような。
そこで、去年生まれた二男には「佑と付けましたよ~」と
言ったような。
Mさんに魔がさしたのか、「ユウでよかが!」となりましたが、今思えば、家族の名前
を付けることは、良くないことだったかも知れません。
動物園動物の名前は、どのように決まるのでしょうか。
行政マンが好む特別な動物では、一般市民に公募することもあります。
何が特別なのか分かりませんが、特定の動物を「園の目玉にする」という発想は、
私の理念・価値観とは対極にあるものです。
特別な動物ですから、名前の付け方も特別でなければならないのでしょう。
それ以外は、飼育担当者が決めるのが一般的です。
昔は、嫌いな上司の名前を付けることもあったとか(裏の名前として)
動物園によっては、その年に生まれた子ども全部に、ある「共通の名前」を付ける
こともあります。
今年は「植物」、来年は「お菓子※」、再来年は「遊び」、その次は「野球用語」
といった具合です。
そうすることで、その個体の名前を聞いただけで、生まれた年が分かるという利点
もあります。
※上野動物園のジャガーは、「ポテト」と「チップ」でした。
他にも、クリスマスイブに生まれた個体には「イブ」という名前
を付けたりもします。
もちろん、すべての動物に名前を付けることはできません。
たとえば、フラミンゴやペンギンなど個体数の多い動物では、名前ではなく
「足輪や翼帯」で個体識別しますが、足輪などは取れてしまう
簡単に捕まえられる動物では、マイクロチップという小さな金属
を皮下に埋めて、読み取り機で個体識別する方法などがあります。