カンガルーのなみだ

 

絵本Web版はこちらをクリックしてください!

 

 

動物には、その動物独特の病気があり、「カンガルー病」もまた、特異な病気です。

原因は、口腔内での細菌感染、その発症メカニズムの詳細は、完全には解明されていません。

この病気を発症すると、まずよだれを垂らす事が多くなり、捕まえてアゴを触ると、腫れている

ことも多いです。

口の中を見ると、歯周病のため歯がぐらぐらしていたり、歯茎から出血している個体もおり、

症状が進むと次第にエサを食べられなくなり、最終的には衰弱死します。

 

解剖してみると、肺や肝臓に膿痬がみられることもあります。

ある夏の日、大人のカンガルーが発症しました。

初めは、口腔内の消毒や抗生剤の注射で持ちこたえていましたたが、秋の気配とともに痩せ

衰え、展示も限界にきていました。kangaroos-750853_640

その日は、さらに衰弱が進んでいたため動物病院に収容しました

が、カンガルーに残された時間はあまりありませんでした。

そんな時、最後まで延命治療を続けることだけが、獣医師の務め

だとは思いません。

 

「カバ園長」で有名だった西山登志雄氏も、上野動物園時代にラクダの治療を断ったことが

あります。

 「ラクダは砂漠で、星を見ながら死ぬ動物だから」というのが理由です。

その夜、西山さんはラクダといっしょに、夜を過ごしたそうです。

 

 

 



人に尊厳死があるのなら、動物にも尊厳死があっていいと思います。

大切なのは、どのようにして最期を共有するかではないでしょうか。

「死を待つ人の家」を建て、尊厳ある最期を叶えてあげたマザーテレサのことも、こころの

片隅にあったのかも知れません。

 

カンガルーにとっての尊厳ある最期とは何なのか。 痩せた体をかかえ、温めたミルクを死に水

のつもりで飲ませました。

すると、どうでしょう。

脱水のために、大きくくぼんだ左右の目がしらから、信じられないほど透明で大粒のなみだ

こぼれ落ちたのです。

 

静かに横たわる体は、に甘えて遊んだころを夢みるように、穏やかな眠りにつこうとして

いました。%e3%82%ab%e3%83%b3%e3%82%ac%e3%83%ab%e3%83%bc%ef%bc%9a060_1

Pocket
このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - カンガルーのなみだ