24年の話題から Ⅱ アフリカゾウの抜牙

今年5月、国内初となるアフリカゾウ(トム:下写真)の抜牙(ばっが)が、東京都の

多摩動物公園で行われました。

 

 

 

 

 

オスのゾウは、牙を壁などに擦りつけて折ることがあります。

トムも2018年、左の牙を約50cmほど折ってしまい、歯髄が露出するようになりました。

治療を続けましたが、歯髄が腐敗し牙内部も空洞化して牙再生の見込みがないことや、

このままでは細菌感染のリスクがあることなどから、残りの牙を抜牙することになりま

した。

 

当日は抜牙経験が豊富なアメリカ専門チームも招聘し、国内外の大学から麻酔専門の

獣医師、国内の動物園獣医師・飼育員など、総勢60人以上のスタッフ(下写真)で作業に

当たりました。

 

 

 

 

 

抜牙をするには、トムに麻酔をしなければなりません。

当日は塩酸エトルフィン(M99)という麻酔薬が使われ、麻酔時間は約3時間でした。

塩酸エトルフィンは、モルヒネの1,000倍に達する最も高い鎮痛活性を持つ麻酔薬で、

ゾウやキリン、サイなど大型動物の麻酔に使われます(人への使用は禁止されている

現在は法令(麻薬及び向精神薬取締法)により、麻薬の研究者しか使用できないため、

特別な許可を受ける必要がありました。

 

 

 

 

 

9時半過ぎの麻酔から約2時間で、残っていた牙(下写真)の抜牙に成功しました。

牙は約50cm、重さは約3.5kgでした。

 

 

 

 

 

その後、患部には細かく砕いたを詰めて止血しました。

傷口は、半年から1年ほどかけてゆっくりと塞がると思いますが、それまでは感染症

注意しなければなりません。

12時半頃に拮抗剤を投与すると、トムは5分後に起き上がりました。

抜牙直後は食欲不振睡眠障害などもあったようですが、現在は元に戻っています。

 

大型動物の麻酔では、自重による臓器圧迫や呼吸抑制、神経・骨格筋損傷などのリスク

があるため、右側を下にした横臥位(おうがい)の姿勢(下写真)にします。

 

 

 

 

 

また、塩酸エトルフィンをゾウに使用した場合、呼吸抑制や血圧低下などの合併症が生

じることが知られているため、気管にチューブを入れて気道を確保、人工的な呼吸支援

など、様々な対策が採られたようです(無事に終わって良かった、良かった)

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