時間が経つにつれ、子どもの声は小さくなり、やがて、聞こえなくなりました。
次の繁殖を考えた時、子どもがミルクを飲んでいたなら(ユキがミルクを飲ませていたなら)
でも、そうでないのなら、次は人工保育にするべきと考えて
いました。
そのためには、ミルクを飲んでいたかどうかを確かめる必要
があります。
つまり、子どもの解剖です。
哺乳類の子どもでは、胃からレンニンという酵素が分泌され、ミルクの中のたんぱく質を凝固
させます。
凝固することでミルクは胃の中に長く留まり、栄養が吸収されやすくなるのです。
解剖には山口君にも立ち会ってもらいましたが、子どもの胃の中には、ミルクは残っていま
子どもの解剖から何年経った頃でしょうか。
二度目の動物公園勤務の時、山口君から衝撃の告白がありました。
「僕は本当は、シロクマの子どもの解剖はして欲しくなかった!」と。
今思えば、担当飼育員の想いよりも、獣医師という切り口を優先したことに対する魂の叫び
でした。