動物を「飼育する」ということ そのⅥ

動物園で飼育されている多くの動物たちは、いったい、どこから来たのでしょう。

もちろん、その動物園で生まれ育った個体もいますが、あるものは動物商から購入、あるもの

は他の動物園や動物商との動物交換(等価交換)、他の動物園や個人からの無償譲り受け、BL

(ブリーディングローン)による借り入れなどです。

他にも、ジャイアントパンダや戦後のアジアゾウのように、国際親善という名目で来園する

動物もいます。


戦後、上野動物園に来園したアジアゾウのインディラは、正しく日本

とインドにおける国際親善の象徴でした。

戦争末期、多くの猛獣たちとともに、ゾウも処分されました。

「ゾウは猛獣ではない」と言ったところで、理解されるはずもありません。


 
戦後、「生きたゾウを見たい」という、多くの子どもたちの願いに応え、当時のネール首相

メスのゾウを寄贈してくれました。

愛する娘の名前をつけたゾウです(後のインディラ.ガンジー首相)

そのインディラですが、一度だけ飼育舎から逃げ出したことがあり

ます。

 

職員総出で飼育舎に戻そうとしたものの、興奮状態のインディラは、言うことを聞いてくれ

ないのです。

こうなったら、退職したOさんに頼むしかありません。

長年インディラの飼育を担当していたOさんは、術後の療養中にも関わらず病院から駆けつけ、

命をかけてインディラの収容に無事、成功しました。

 

多くの動物たちの飼育を安定的・継続的にするには、国内外問わず、動物園での繁殖が欠かせ

ません。

今では当たり前になった動物たちの繁殖ですが、その間、多くの動物たちが一時的な見世物

として、犠牲となりました。

たとえばキリンですが、当初は長期飼育すら難しい動物でした。キリンの主食はアカシヤなど

の木の葉ですが、他の草食動物※同様、草を主食にしていました。gum10_ph05097

草食動物
 草を主食にする(Grazer)や木の葉を主食にする(Browser)などが

 います。

 

キリンの長期飼育が可能になり、繁殖するようになったのは、ルーサンという牧草を与える

ようになってからです。

ルーサンは「牧草の王様」とも言われるくらい栄養価の高いマメ科植物で、キリンの主食で

あるアカシアも、同じマメ科植物です。



動物園の人気者であるゴリラも、飼育開始から繁殖するまで約100年を要しました。

世界で初めてゴリラの飼育・展示を始めたのはロンドン動物園ですが、繁殖に成功したのは

アメリカのコロンバス動物園(1956年)です。

phm25_0526日本でも京都市動物園で繁殖に成功(1970年)していますが、欧米の

ような複数の繁殖集団を飼育・展示しているところはありません。

 

 

 

ホッキョクグマも種の保存が難しい動物の一つで、日本国内でも、飼育を止める動物園が増え

ています。

以前は、北極という緯度の高い地域に生息していることから、繁殖には緯度との関係があるの

ではないか、と言われていました。

事実、日本で最初の繁殖は旭山動物園ですが、世界では何とシンガポール動物園が最初です。

動物の飼育を続けるということは、その動物種の「種の保存」について、今後とも取り組んで

いくという理念・哲学の裏付けがなければなりません。

 

ホッキョクグマなら、国際基準に合わせた陸地(土の放飼場)を併設した飼育施設でなけれ

ば、今後、外国からの新たな個体の導入は難しくなります。

だからこそ上野動物園は、そのような施設にリニューアルしたの

です。

さすがですね!

 



ただ、地方自治体が管理・運営する動物園の多い日本では、「行政として何をするか」が

優先し、「動物のために何をするか」という、現場にとって一番大切なことが後回しになり

ます。

先進国の中で唯一、未だに「動物園法」もないわけですから、残念でなりません。

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