関東地方のC市動物公園に、M子というメスのゴリラがいました。
C市では、同居していたオスが死んでしまったため、上野動物園にBL
※として貸し出し、ゴリラの繁殖に取り組むことになりました。
※BL
繁殖目的に、動物園(水族館)同士が所有する動物を貸し借りすること。
(Breeding loanの略)
当時、上野動物園には若くて逞しい「ビジュ」という群れで育ったオスがいたので、M子との間
にも繁殖の期待が高まりましたが、その一方で、思わぬ事態が起きてしまいます。
上野動物園には、関西地方のK市から、GというメスもBLで来ていて、すでにビジュと仲良く
繁殖オスには、あらゆるメスと仲良くできる技量・資質がなければ
なりません。
当然、ビジュはM子とも仲良くなりましたが、Gの精神的ダメージ
は相当のものでした。
その後、食欲もなくなり、自傷行為※も始まり、このままでは命の
危険さえあったため、GはK市に戻ることになりました。
※自傷行為
死ぬために行うものではなく、心の痛みを抑えるため、自らの身体を意図的に傷つける行為
その後M子は、2000年にオスの子供を産み、Mタロウと名付けられました。
日本中の動物園関係者は、将来の繁殖オス候補として、上野動物園でのMタロウの成長に期待
しましたが、またしても、思わぬ事態が起きてしまいます。
BL契約の詳細は分かりませんが、第一子の所有権はC市となっていたのでしょう。
オスの子供が生まれたことを伝え聞いたC市の市長はBL契約を解約し、M子とMタロウをC市に
(老朽化したオランウータン舎新設と引き換えに)
母子ゴリラの所有権がC市にあり(その後、ビジュが死亡)、繁殖目的というBL契約の大義
名分もなくなったのなら、C市の財産である母子ゴリラを戻して、市民に見せてやりたいという
市長の政治判断は、政治家としては間違いではないと思います。
ただ、将来の繁殖オスとしてMタロウを育てたいという動物園関係者の想い・願いを理解でき
る政治家がいるでしょうか。
八百屋で魚を求めるようなものです。
絶滅危惧種であるゴリラの種の保存に、飼育下でも優先的に取り組んできた世界の常識から見
れば、C市の決定は、いかにも日本的で理解しがたい価値観であり、日本のみならず、欧米の
動物園関係者らも落胆させました。
C市では、上野動物園からの新たな2頭を加えた4頭での飼育を始めましたが、2008年、M子と
Mタロウは再び上野動物園に戻されることになりました。
(その後M子は、上野動物園で2頭の繁殖に成功しています)
K市に戻ったGは、今、どうしているのでしょう。
新たなオスとの繁殖に成功し、2011年にオスの
新たなオスとは、14歳年下の、あのMタロウなのです。