今年5月2日付けの科学誌(Scientific Reports)に、オランウータンによる自己治療
の様子が発表されました。
ラクスと名付けられたオスのスマトラオランウータン(下写真)が、抗菌・抗炎症・
鎮痛作用などのある薬草を使って、頬にできた大きなすり傷を手当していたという
もので、場所はスマトラ島にあるグヌンルセル国立公園内のジャングルです。
論文を書いた霊長類学者のイサベル.ラウマー氏によれば、薬効のある植物を使って
傷を治す行動は野生動物では初めてとのこと。
ラクスが使った薬草はアカルクニンというつる植物(下写真)で、現地でも傷の
手当や赤痢・糖尿病、・マラリアなどの治療に使われているそうです。
親から学んだのか、他の個体から学んだのか分かりませんが、理に敵っています。
ラクスは負傷してから3日目にアカルクニンを探し始め、30分以上食べ続けると
いう極めて珍しい行動にでました。
普段は、ほとんど食べないからです(食べ物に占める割合は0.3%だとか)
ラクスの負傷の原因は分かっていませんが、傷を負う数日前に「ロングコール」
という鳴き声を出していたことが分かっていますから、他のオスと争った時に
負傷したのかも知れません。
ロングコールとは他のオスを牽制したり、メスを呼び寄せる機能を持つ鳴き声で、
フランジという顔の横に大きなでっぱり(下写真)のあるオスだけが行うものです。
チンパンジーでは、葉に毛があり表面がザラザラしている植物(アスピリアなど)
を咬まずに飲み込む行動が、以前から確認されています。
葉の物理的作用で腸内の寄生虫を包み、腸の外へ排出していると考えられています。
他にも、飛んでいる昆虫を捕まえて自分や他の個体の傷口に昆虫を擦り付ける行動
も確認されていますが、昆虫の種類や成分までは分かっていません。
さらにゴリラ(ニシローランドゴリラ)では、アフリカショウガ(下写真)の
茎の皮を剥いて中の髄を食べる行動が知られています。
髄には強力な抗炎症作用がありますから、心疾患のリスクを抑えている可能性も
あると考えられています。
一方、動物園で飼われている30歳以上のオスゴリラの死因では、心疾患の割合が
非常に高いことから、上野動物園ではアフリカショウガではありませんが、国産の
無農薬栽培されたショウガを与えています。
ゴリラたちの反応も、良いようですよ。