動物を「飼育する」ということ そのⅧ

飼育下で野生動物を繁殖させるには、彼らの生態を知らなければなりません。

たとえば、日本にはタヌキが2種類生息しています。

北海道以外に生息する「ホンドタヌキ」と北海道に生息する

エゾタヌキ」です。%e3%82%a8%e3%82%be%e3%82%bf%e3%83%8c%e3%82%ad%ef%bc%9aa0074584_2392991

エゾタヌキの飼育下繁殖は、日本では旭山動物園が最初ですが、何と

平成になってからです。

タヌキなら簡単に繁殖しそうですが、なかなか繁殖しませんでした。

冬眠しないエゾタヌキにとって、寒さの厳しい北海道は、エサを探す

のも一苦労です。

野生では、ほとんどの個体お腹を空かし、ガリガリに痩せながらも何とか冬を乗り切った

ものだけが、春の繁殖期を迎えられるのです。

つまり、生きるか死ぬかの状態になることこそが、次の命を育む原動力になるのです。

日本にいるノウサギも、同様のメカニズムによって繁殖するようです。

 

 

 

 


飼育下動物は、冬でもエサが貰えます。

飼育担当者の気持ちになれば、せめてエサくらいは食べさせたいと、思うのも無理はありま

せん。


エゾタヌキには可哀想ですが、エサの量・回数を減らすことで繁殖に成功しました。

(動物にとっては、己の遺伝子を残すことが大事なことですから)

 

以前、環境省がルリカケスの生息調査のため、奄美市(金作原)に巣箱を設置したことが

あります。%e3%83%ab%e3%83%aa%e3%82%ab%e3%82%b1%e3%82%b9%ef%bc%9a20140516d00-imag2014051188216_imo_02

長方形で、左右に出入り口があるようにして巣箱を設置しましたが

数年間は繁殖しませんでした。

ところが、何年目かに台風に見舞われ巣箱が傾き、結果、上下に

出入り口のある形になった年に、初めて繁殖したそうです。

奄美大島には天敵のハブがいますから、上下に出入り口がある方が逃げやすく、使い勝手の

良い巣箱になったのかも知れません。

 

クマでは、「着床遅延」(ちゃくしょうちえん)という生理的現象が起きることがあります。

ニホンツキノワグマは、エサが乏しくなる冬場を「冬眠」で、乗り

切ります。

その間は基本、「飲まず・食わず」ですから、かなりの体力を消耗

します。

 

おまけにメスは、冬眠中に出産・子育てもするわけですから、冬眠前には、栄養皮下脂肪

をいっぱい蓄えなければなりません。

別な言い方をすれば、栄養状態の良いメスは受精卵が着床、その後出産し、そうでないメス

では、受精卵は着床できないということになります。

クマにとっても己の遺伝子を残すことが大事ですから、条件の悪い時に、出産・子育てと

いうコストはかけられません。

冬眠中、多くのメスの巣穴で子どもが生まれていたら、その森は、豊かな森であったこと

が分かります。

 

カモノハシという動物がいますが、皆さんは知っていますか。%e3%82%ab%e3%83%a2%e3%83%8e%e3%83%8f%e3%82%b7%ef%bc%9at049934a-1

世界でも数種類しかいない、とても珍しい生態を持った哺乳類です。

哺乳類の基本は「胎生」ですが、カモノハシは何と卵性なのです。

 

メスは2㎝ほどの卵を数個産み、10~12日で子どもが生まれます。

子どもの口ばしの先には卵嘴(らんし)と呼ばれる突起があり、それで卵の殻を割ります。

メスには他の哺乳類のような乳首はなく、子どもは、乳腺から染み出てくる乳を舐めて成長

します。

この乳腺の存在が、哺乳類の決め手になっているのです。

カモノハシの巣は水辺の土手にあり、巣穴の入り口は水中にありますが、巣は水面よりも

高い位置にあります。

親は狭いトンネルを通り抜け巣にたどり着きますが、その途中で体表の水分が扱かれ、巣内

理想的な湿度に保たれます。

 

オーストラリアのタロンガ動物園も、カモノハシの繁殖に取り組んできました。

しかし、子どもが生まれても、途中で死んでしまう(肺炎が原因)のです。

その原因は、人工的に作った巣へ続くトンネル幅が広すぎたことです。

そのため、親の体表には水分が残り、巣内の湿度が常に高くなっていたことが分かり

ました。

野生個体の巣穴を調査してみると、意外と狭いことが分かり、その後、トンネル幅を狭く

することで、繁殖に成功しました。

 

北海道のタンチョウでは、オス・メスが抱卵を交代する時に直ぐには卵を抱かず、しばらく

そのままにしていることがあります。tancho

時期的には未だ寒く、みぞれが降ることもあります。

おまけに水辺のツルですから、腹部が濡れたまま卵を抱き始める

こともあります。

 

一時的に抱卵を止めるとヒナが発育し過ぎることもなく、卵の表面の水分は気化熱となり

ヒナが成長するための刺激となっていることが分かりました。

本能とはいえ、野生には無駄なことはありません。

 

そのことから、動物園などでは日に数度、ふ卵器を止めて扉を開放し、一時的に温度を

下げます。%e3%81%b5%e3%82%89%e3%82%93%e6%a9%9f%ef%bc%9aosk01dl350s

水鳥などでは、卵の表面に霧吹き水を吹きかけます。

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